2014年1月26日日曜日

BSプレミアム「超常現象」:意識の自由と舞い込んだチラシ(on twitter @rahumj)

 1月18日のNHK BSプレミアム「超常現象」では超能力として,遠隔透視(RV),テレパシー,予知能力を主に取り上げた.この内,前者の2つは一種の情報通信とみなせるため,一つの科学理論によって説明できる可能性を持つ.番組では前回の「量子脳理論」と同様,これらの現象の量子論による説明が仮説として登場した.それが「量子もつれ」だ.

 「量子もつれ」を思いっきり意訳すれば,「量子もつれ関係にある2つの量子の状態は,どんなに空間的に離したとしても常に同じ」ということだと思う.おそらくこれを量子脳理論と合わせて,テレパシーで通信する2者の量子論的意識が「量子もつれ」状態にあったとすることで,テレパシーや「虫の知らせ」,さらには遠隔透視を説明したいところなのだろうが,そのグランドデザインすら見えてこないのが現状らしい.

 ただ今回放送された内容の中で,量子論(アイソトープ崩壊)を応用して作られたハードウェア乱数生成器の生成する完全な乱数が,人間の意識状態による影響を受けるという実験結果が報告された.

 もしそれが事実ならば,それは量子脳理論と整合性があるようにも思える.意識が量子論的特性(特に不確定性原理)を持ち,一種の量子とみなせるのであれば,意識の「身体による空間的拘束」は,意外にも限定的なのかもしれない.

 今回のBSプレミアム「超常現象」の中で,最も科学的説明が難しいのが予知能力だ.超心理学者による実験が紹介され,ランダムな画像を被験者に提示し,その身体的反応を測定する実験を行った結果,被検者は事前に提示される画像の種類を予測しているという結論に達していた.

 この結果は単純に「意識は空間的だけでなく,時間的にも拘束されない.故に未来を見ることができる」と言いたいところだが,それは量子脳理論をも超えてしまっている気もする.しかし「時間反転対称性の量子論」は,そもそも本来,過去も未来もない(「永遠の今」)と言っているようにも思える.

 時間対称化された量子力学 (TSQM)は,過去の状態のみならず(因果律),未来の状態も,現在の状態に影響を与えるとする.時間対称化された量子力学(TSQM)による解釈は,いわゆる「多世界解釈」に矛盾しない.

 量子力学の標準的解釈の問題:
  1. 測定前の物理量の非実在性(複数の状態の重合と確率的予測)
  2. 非局所相関(例:量子もつれ,光速度超え的現象)
  3. 非因果性(不確定性原理)

 エヴェレットの多世界解釈によれば,非局所相関と非因果性の問題は解決できるが,非実在性が解決できなかった.多世界解釈にTSQMを組み合わせた解釈では,この実在性問題を解決できるとされている.


 今,ポストを見てみたら偶然なのか,流行なのかわからないが,量子脳理論に基づくと思われる脳教育トレーニングのチラシが入っていた.「お金・健康・人間関係・幸せなど,思いが現実に引き寄せられる秘密」を明らかにし,それを応用・実践して人生を変えるというものらしい.

 チラシの表には,それを実践した体験者のドキュメンタリー映画「CHANGE」上映と,その実践セミナーについてに関する情報が掲載されていた.この映画の出演者の中に,驚くべき人物がいた.スチュアート・ハメロフ博士(アリゾナ大学・意識研究センター所長)である.彼こそは,量子脳理論の一つ,「ペンローズ・ハメロフ アプローチ(Orch-OR Theory)」の提唱者である.ちなみにチラシでは彼が「物理学博士」と紹介されていたが,彼は「医学博士」である.

 チラシの裏は,量子力学と量子脳理論(?)に基づくとするヨガ教室の広告が掲載されていた.その説明文の中で量子力学の観測問題に触れており,「観察者の意識が,望んだ結果をつくりだす」との大胆な記述がある.これは超心理学者ヘルムート・シュミット (Helmut Schmidt)の行ったハードウエア乱数生成器による念力実験結果にもとづいているのだろう.

 チラシを読んでいくと,どうやらヨガ瞑想の基礎理論として量子脳理論を取り入れたものらしい.現世的欲求の充足,癒やし(ヒーリング),「成功」を強調する点からは,自己啓発セミナー的なものを感じた.

 最近のカルト的グループの特徴は,(エセ)科学とスピリチュアリズムと宗教・倫理の混淆を基礎理論として,「成功者」「勝ち組」「癒やし」「お金持ち」等の言葉でナイーブな人々を誘惑することにあると思う.

 そして入会後はマインド・コントロールを施して見えない形で会員を拘束し,財産を巻き上げ,「社会貢献」「奉仕活動」と称して無給で伝道させ,マルチ商法的手法で会員を再生産する.

 ではどうやって,そのグループのカルト性を検出するかだが,その客観的指標としては
  • 基礎理論の依拠する「科学」の科学的妥当性
  • マインド・コントロールの有無
  • マルチ商法的伝道(入会者の人数に比例する報賞)
  • 訴訟・被害報告
等があげられるだろう.

 また教義の中やグループの活動内に,「聖なる目的のためには人をだましてもよい」「その人のためにポアすべし」といったような「聖なる目的による手段の正当化・合理化」傾向が見られることも特徴の一つだと思うが,それは一般的な倫理に反しているため,通常,それは上級会員に「奥義」として伝授される可能性が高い.

 とすると秘教的奥義の有無もカルトの特徴のようにも思われる.奥義の少人数による寡占状態が,カルト性を胚胎するのかもしれない.

 いずれにしても,量子脳理論は「魂=意識」の存在に関する科学的論拠を提供したことは間違いない.それはカントが哲学的に形而上学を擁護したように,現代において科学的に「超自然現象」や「霊」を擁護する.オカルティズムやカルト的集団が,この理論を放っておくはずはない.

 科学は一種の道具である.そこには善も悪もない.ゆえに,人を生かす道具にも人を殺す道具にもなり得る.純粋な科学の場には,倫理的判断など存在しないのである.またエセ科学の反駁は科学者なら出来ようが,量子脳理論のような「未熟科学」の反駁は科学者でも難しい.

 それは量子脳理論が,ペンローズによれば科学的に検証可能であるにもかかわらず,未だに検証されていないからである.量子脳理論の「悪用」を防ぎ,その被害者を出さない為にも,一刻も早い検証が求められる.

未熟科学が他の多くの研究者による厳密な検証を経て,正式な手順で理論化し,正統な科学として定立されるまでは,その「応用」なるものに手をだすべきではない.

これが私の意見である.

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