2014年1月13日月曜日

ザ・プレミアム「超常現象」におけるドラマ「TRICK」批判(on twitter @rahumj)

 NHK BS「ザ・プレミアム 超常現象」.その第1集「さまよえる魂の行方」を11日に見た. 始まる前は,ドラマ「TRICK」で主人公の科学者を演じていた阿部寛が出演することから,てっきり実際に起こった超自然的現象を,「TRICK」のように科学者が暴いていく番組かと思っていた.ところが最後まで見たところ,この番組が完全に,ドラマ「TRICK」の批判として作られていることに驚いた.

 ちなみにあつかった超常現象をあげてみると
  • 幽霊と火の玉現象
  • 臨死体験と体脱体験
  • 前世記憶
 といったところ.軽くその内容に触れてみよう.

 まず最初の「幽霊と火の玉」については,心霊現象研究協会(SPR=The Society for Psychical Research)の科学者チームが,幽霊や火の玉が出るという無人城に最新測定機器等を搬入し,調査を行うというものだった.まるで昔の映画「ヘルハウス」を思わせる展開だ.

 ちなみにこのSPRのチームには,映画「ヘルハウス」のように霊能力者は含まれていないが,超心理学者が含まれている.彼らの調査により,火の玉を見たという部屋において,異常な電磁波が検出された.測定された様々なデータから彼らの導き出した結論は,これらの超常現象と称されるものは,その電磁波によるプラズマ発生と脳の錯覚,および,恐怖心によって引き起こされたというものだった.

 この結論自体は,いまや「幽霊・火の玉」現象の標準理論と言っても良いものであり,驚くに値しない.SPRチームは電磁波の発生源が見当たらないことを問題としていたようだが,その標準理論ではその電磁波源を地中の活断層にあるとしている.

 標準理論では,活断層から発生する強力な電磁波は,火の玉やUFOに似たプラズマ火球を作り出すと同時に,脳に変調をもたらし,幻覚や神秘体験を引き起こし,場合によっては,凄惨な事件の原因ともなる.それゆえ活断層に沿って,宗教的施設が配置されることになる.

 次の臨死体験体脱体験についての科学的説明は,低酸素状態における脳の変調による幻覚という説明だった.これもやはり臨死体験や体脱体験の標準理論に近い説明だと思う.

 補足すると体脱体験において失神した本人が,知り得ない情報を見知っていることについては,「失神しても脳や視覚以外の感覚は生きており,それまでの記憶と共にその感覚入力はリアルタイムに情報処理され続け,それによって構築された脳内の仮想的視界において,自己の位置認識が実際とは異なる空間(空中)に定位した結果」と説明される.

 ただし遠く離れた場所の出来事や,視覚によってしか得られない情報を体脱体験者が語ることもあり,現在の標準理論ではその現象が説明ができていない.

 最後の前世記憶現象についての,最初の科学的説明はちょっと残念なものだった.番組に登場した発達心理学者は,それを「子供の捏造」としたからだ.前世記憶の研究は,大規模な調査がインドで行われたと記憶しているが,捏造では説明しきれないものが多々ある.例えば,前世の人間の親族しか知らない情報を記憶していたり,教えられたこともない前世の人間の母国語を話す(異言)等の事例が確認されている.

 今回の前世記憶を含む心霊的超常現象の科学的説明で,特におもしろかったのは,スティーヴン・ホーキングと共にブラックホール特異点定理を証明した,あの大物理学者ロジャー・ペンローズの提唱する意識の科学「量子脳理論」による説明だ.意訳してしまえば,肉体に憑依可能な「意識=霊」は実在し,それによって心霊的現象や前世記憶も存在するが,「霊」自体は物理学的存在であり,形而上学的存在ではないとするものだ.

 この理論は比較的有名らしく,カトリック信者である円谷英二が創業した特撮プロダクション円谷プロ制作による,セカイ系ハードSF特撮TVドラマ「ウルトラマンネクサス」(2004)においては,人間に憑依する「光量子情報体=霊」として表現されている.

 クオリア問題を扱う茂木健一郎の得意分野と思われるこの「意識の科学」は,文系理系を越え,あまりにも広大な学問領域にまたがっており,自分の能力ではとてもすべてを俯瞰することは出来ない.いわゆる「意識のハード・プロブレム」は天才たちに任せて,自分はこれ以上の言及を差し控えておこう.

 私が言いたかったのは「超常現象」というNHK著作・制作の番組が,たいへんバランス感覚の良い,丁寧な作りであった事である.学術的になりすぎず,かといってオカルト・エンタテイメントでもない.取材もしっかりやっており,要所を抑えている.つまり簡単にいえば「ジャーナリスティック」であり,臨死体験を徹底取材したジャーナリスト立花隆の姿勢を感じさせた.

 現象に対する謙虚さは,科学者として忘れてはならない基本姿勢である.先入見を捨てて,raw data を見据えることから,全ての科学は始まる.自分はこの番組にそれを感じ取って,うれしく思った.またその番組を海外の放送局ではなく,日本のNHKが独自に制作したことも賞賛したい.それはドラマとはいえ「TRICK」の科学者には全く見られなかった現象に対するエポケー的態度である.

 この番組「超常現象」においてNHKが,「TRICK」の主人公科学者上田次郎を演じている阿部寛をキャスティングし,その主人公のごとく演じるよう番組演出し,進行させた事には全く驚かされる.どのような経緯があったかは知らないが,その出演を承諾した阿部寛にも,その出演決断において相当の勇気が必要だったのではないか?しかもこの番組の放送日1月11日は,なんと最新作「TRICK劇場版 ラストステージ」公開初日に当たっている.

 NHKが「超常現象」という番組を制作し,このようなタイミングで放送したのは,彼らが「TRICK」というドラマの仕掛けた本当のトリック,視聴者に対するトリック(ずるさ)に気づき,それが彼らのジャーナリスト魂に火をつけたためなのかもしれない.

 NHKはこの番組「超常現象」において,テレビ朝日出身の科学者上田次郎の口から心理学者ユングの言葉を語らせることによって,科学者上田の傲慢を正し,悔悛を促した.彼はもはや断罪者ではない.現象の前にひざまづき,現象に教えを乞う者である.

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