2013年12月7日土曜日

存在と世界(on twitter @rahumj)

 あらゆるシステム(情報)は,その存在する世界において「永遠の存在」となるべく,自己のバリエーションを作り出し,それらをコピーする.コピーする理由は,時間経過とともに増大するエントロピーよる死を回避するため.バリエーションを作る理由はシステムを取り巻く環境変化による死を回避するため.

 最低限,現時点でシステムが存在するためには,現時点の環境(世界)に適応している必要があるが,その環境が永遠に変わらないという前提をシステムは持ってはいない.それゆえに,様々な環境に適応可能な様々なバリエーションを作り出すのであるが,通常,システムの創りだすバリエーションは環境の漸次的変化のみを前提として作られる.したがってバリエーションの偏差はそれほど大きくはなく,なおかつ,そのバリエーションの創出者とも乖離していない.これによりシステムの情報アイデンティティは保たれるのである.

 環境内のシステムの採用する「永遠の存在」への戦略は,環境も一種のシステムであることを前提としている.環境の変化がランダムではなく漸次的ならば,淘汰によって残存するバリエーションにもある方向付け(変化のベクトル)がなされるだろう.言い換えれば進化を方向づけるのは環境であるが,その外向きの進化の中で,個体の生存期間延長の模索(内向きの進化)も行われる.

 おそらくコピーにかかる莫大なエネルギーを考慮すると,細菌的に短時間にコピーを連続的に行うよりも,個体生存期間を適切に延長した方が(情報)生存率が良いためだろう.

 まとめるとシステムは,その存在する世界の2つの死の側面,時間(エントロピー)と空間(環境変化)の2つに対抗すべく,変化を意図する.


 つまり進化は(生命的)システムの必然であるが,それはシステム内に複雑化をもたらす.その複雑化は,一種の環境の写像であると思われる.システムは環境の鏡とも言えるのである.

 この複雑化の過程が進むと.システムの内部はいわば,「環境化」される.システム内が一種の世界となり,そのシステムとは異なる情報アイデンティティを持つ存在(システム)に場を提供する.


 その内的世界に生まれたシステムは,やはり「永遠の存在」を志向する.おそらく内的世界を提供する外側のシステムが,その存在の有用性を認知するのであれば,内側に存在するシステムと共存できるだろう.腸内有用細菌叢のように.しかしこの共存認可には条件がある.外側のシステムの情報アイデンティティを破壊しないということである.

 この外側のシステムの情報アイデンティティの破壊は,いくつかのケースが考えられる.ひとつは内的システムの巨大化・専有化.人体で言えば内蔵肥大.もう一つは内的システムの反逆.人体で言えばガン.この2つの内的システムはいずれも,その最終局面において,世界(人体)とともに死ぬ.

 環境と環境内システムがこのような死に至らないための「知恵」は,通常はそれぞれのシステムに獲得されている.それは「対話」である.環境とその内側のシステムは,共通言語を持ち,対話することができる.お互いの情報アイデンティティを維持しつつ,共存するために対話を行うのである.

 逆に言えば,上述の内蔵肥大やガンは,環境(周囲の細胞等)との対話を行ってはいない.特にガンは己の生存のために,環境との対話(おそらくアポトーシス命令?)を無視し,生に執着するあまり,環境を自己に隷属すべき敵であるとみなし,専制的にコントロールし,征服するという手法を取る.

 しかしガンはその環境征服が完了し,己の世界帝国が完成すると同時に,世界とともに滅びてしまう.「永遠の存在」となるべく,死から逃れようとしたガンのとった手法は,結局は自らの死を引き寄せる結果となってしまった.この手法をガンが今後も維持していくならば,ガンの進化の方向は感染であろう.

 おそらく遺伝子は一種の図書館である.その個体や種に関する情報のみならず,様々な過去の進化過程におけるobsoleteな情報や,不要で不活性となっている情報が眠っているだろう.ガンがそれらの書物を開いて,生存のための進化学習をする可能性はある.

 ところがガン自身には他者との対話性がなく,交雑もしない(無性的)上に,生に向かって狂奔しており,短命であるため,仮に知識を獲得したとしても,それを次の世代に残すことができない.ただ天才的な短期学習をしたガンが,人体の中でおしゃべりなウイルスと接触し,そそのかされて対話するとなると,話は違ってくるのかもしれない.

 いずれにしても,世界がシステムであるとすれば,その世界内に存在するシステムは,互いの情報アイデンティティを維持しつつ共存するために,世界と対話し,交渉しなければならない.ガンは世界に対して無知だった.世界の王になれば「永遠の存在」になると妄想していたのだ.

 ガンは世界(人体)を知らないが,世界はガンを知っている.そのためTNFシグナルによるアポトーシス発動やNK細胞等の数層に渡る免疫防御システムを内包しているのだろう.ただガンが免疫に対して擬態することを考えると,ガンには少なくともある程度の世界に対する知識はあるのかもしれない.

 おそらく世界(人体)との対話性を獲得したガンは,その情報アイデンティティを最も長く維持する方法として,「小さな独立王国」を世界の中で建国し,領土拡大路線を捨て去るだろう.場合によってはその対話の中で,ガンが世界のある一定の役割を担う可能性も否定出来ない.

 世界がシステムならば,その世界内のシステムは,世界内の他者(他のシステム)のみならず,世界そのものとも対話し,交渉しなければならない.そして「永遠の存在」を志向する世界内システムは,世界に対する「自己存在」の従属性を認めねば,その目的は達成することができない.

 ただもし仮に,世界内システムの情報アイデンティティが,その存在する世界の情報アイデンティティと一致した場合どうなるのか?存在する世界が異なるだけの,同一の情報を持つ2つのシステム(インスタンス).

 少なくとも世界システムに近づくに連れて,世界内の他者(他のシステム)から見たその世界内システムは,「透明」「無」に近づくのではないか?つまり背景にフェードアウトするように…

 さらにその世界と同一の情報アイデンティティを持つ世界内システムが,(事実にかかわらず)世界が「永遠に存在する」と想定した場合,そのシステムは「永遠の存在」となるという目標を,その世界内で達成したと認識するだろう.

 その認識を得た世界内システムは,一番最初に戻って,バリエーション作成,コピー作成,個体生存期間延長の模索,といった一切の生命的な活動,進化と生存の努力を放棄するだろう.

 もしそれだけならば,上述の状況における世界内システムは,他者からいわばミイラ,永遠の死体のように見える.ところが世界内システムがその中に存在し,identifyする世界もまたシステムであり,「永遠の存在」を志向し,なおかつ「生きている」のであれば,世界内システムは生きざるを得ない.

 つまり世界内システムは,世界の只中にいながら,「世界の外」に生きていることになる.それ故その生命活動は,「世界の外」におけるシステムと同様となり,世界内の他者の生命活動とは大きく異なる.そのような特殊な世界内システムの生存確率は,他の世界内システムよりも厳しくなるはずであり,時には死に向かって積極的に活動しているようにも見えるだろう.だた世界の外が世界の中に写像されているのであれば,写像の仕方にもよるものの,その類似性により生存は不可能ではないだろう.

 なお附言すれば,そのような「世界外に生きているような」世界内システムは,他者からは,「(半)透明」な存在,「無」的存在と認識されるだけでなく,その存在事実から「世界からの突出」としても認識されるであろう.

世界を一つの実体と一つの魂を備えた一つの生命だと常に見なせ.
—マルクス・アウレリウス, 『自省録』、第IV巻第40節

0 件のコメント:

コメントを投稿